sseze's blog

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「深圳すごい」とはどういうことだったか?

この記事は第8回ニコ技深圳観察会参加レポート:あの1週間の深圳滞在を振り返ってのトピックその2です。

トピックその1はこちら

前置きが長くなってしまったが、ここから今回のレポートの本題となる。

中国・深圳への滞在期間は2018年3月17日~22日までの約1週間ほど、昨年11月の Maker Faire Shenzhen 2017 から4ヶ月ぶり、2回目の訪問となった。

「深圳すごい」というフレーズは、深圳を訪れる人が必ずと言って良いほどよく口にする言葉だが、じゃあ何がどう「すごい」のだろうか?

まずは今回の訪問先についてざっくりと振り返っていく。

スケジュールの都合上一部この順序になってはいないのだが、

  • パート1(工場・製造現場編)
    • Made in Chinaの根幹を成す、製造業の街・深圳の製造現場を訪問。
    • 訪問先
      • Seeed AMC(Agile Manufacture Center)
      • JENESIS、及び取引先の金型、射出成形工場
      • 普沙井電子城(巨大なメカトロショッピングモール)
  • パート2(深圳ハードウェアスタートアップ編)
    • 深圳のエコシステムを活用して急成長中のハードウェアスタートアップを訪問。
    • 訪問先
      • Insta360(Shenzhen Arashi Vision, inc.)
      • Kandao
      • CityEasy
      • Dubot
      • Honeycomb
  • パート3(インキュベータ/アクセラレータ編)
    • 次世代のハードウェアスタートアップを生み出す仕掛けを探る。
    • 訪問先

という感じにおおまかに分けると3つのパートに分かれていた。

深圳という街が家電メーカーの工場地帯に始まり、その後受託製造の街へと変貌する過程で巨大な水平分業サプライチェーンが形成され、世界的なハードウェアスタートアップの集積地へと変化していく過程がよく分かる構成になっている。

その中で共通しているのが "深圳速度" というキーワードだ。元は深圳の建設ラッシュを指す言葉だったとのことだが、今では深圳のエコシステムを形容する言葉としても使われているのだという。

「深圳すごい」の代表格としてWeChatPay(微信支付)が取り上げられることが多い印象があるが、深圳のすごさは単に電子決済が急速に進んだという話では片付けられない。WeChatを生んだTencentの本拠地であるこの街のすごさは、徹底した合理主義と、街全体が社会実装の実験場であることから見ることができる。

徹底した合理主義性に見る、"深圳速度"

深圳は中国初の経済特区で、それまで未開拓だった土地から30~40年足らずの間に急速に発展を遂げたとても新しい街だ。車で1時間圏内に電子機器・デジタル製品のサプライチェーンがすべて集積されているという、製造業の人間ならば羨ましいことこの上ない特異な環境が出来上がっている。

この特異な環境から生み出されたのが、下の写真のスライドに書かれている 『プロトタイプの設計から製品出荷まで41日』という驚異的速さ でのハードウェア開発だ。日本で同じことをやろうものなら、どんなに最速でも半年、多くの場合年単位での期間が必要になるだろう。

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Seeed X.factoryでのプレゼン資料より

潤沢かつ集積密度の高いサプライチェーンというハード面での優位性はもちろんのこと、今回の旅で非常に印象的だったのが、中国人の合理主義的な商売の上手さというソフト面での優位性だった。

深圳のサプライチェーンを語る上で避けては通れないのが合板(ゴンバン/汎用基板)や合模(ゴンモウ/汎用金型)であり、またそれらを組み合わせて製品を作る山寨(シャンザイ)製品である。それまで企業固有のものであった電子基板や金型が、水平分業サプライチェーンが形成される過程で誰しもが作れて使うことができる汎用品となったもの、あるいはそれに独自に手を加えたものだ。

中国はよく知られているように「パクり大国」で、先人が作った良い型はどんどんパクられてあっという間にコモディティ化していく。日本人の感覚からすると「真似なんてズルだ!」と思うものだが、中国人からすると「稼げるときに稼いでおき、パクられている頃にはもう次の飯のタネで稼ぐ」という感覚なんだそうだ。大阪人も顔負けの商売気質。合板・合模・山寨といった考え方もまさにこういう考え方から自然発生的に生まれたものなんだろう。

今回訪問したロボットベンチャーのCityEasyや後述するInsta360のような会社は、その結果生まれた会社の一部である。

CityEasyの話は自分も感じたソフト面での深圳の象徴する一場面として、今回の多くの参加者のレポートでも取り上げられている。自分の書きたかったことも、伊藤亜聖先生のブログや、shaoさんのブログで大体網羅されている。

シリコンバレーも顔負けの真新しいオフィス、そしてソフトウェアエンジニア集団という出で立ちのInsta360は、一見するとCityEasyとは真逆の会社のようである。しかし自分の中では、その中に感じられる数々のことがすごく深圳を象徴しているように思えた。Insta360 ONEは今回の旅で衝動買いしたガジェットの中でも大変お世話になっている製品でもあるので、次の記事ではInsta360について掘り下げてみたいと思う。

つづく