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第8回ニコ技深圳観察会参加レポート:あの1週間の深圳滞在を振り返って

大分遅くなってしまったが、第8回ニコ技深圳観察会の参加レポートをアップする。

情報量・質ともに自分の経験してきた旅の中で過去最高のものであったため、情報の整理・文章化・そして公開するまでにすごく長い時間を要してしまったが、ようやく自分自身で腹落ちすることができたので、思い切って公開してみることにする。

はじめに

実を言うと、このレポートの大半は5月のGW頃までには書き終えていた。しかし何度も文章を書き直すうちに、次第に自分がこの旅を通じて得たかったものはこれでいいのだろうか、所属を公開しながらこんな文章で公開してしまって良いものか、と悩むようになり、毎日活発に送られてくる参加者OB/OGの人たちのWeChatグループの通知を目にしているうち、このブログや「ニコ技深圳コミュニティ」から足が遠のいてしまっていた。

ただ、今回の旅は過去最高の応募の中で参加できた貴重な機会だったし、何より自分の中でもあの深圳での濃密な1週間をどうにか形にしておきたい、という気持ちが2ヶ月弱の間、常に頭の片隅にあった。

たとえ今は納得のいく出来でなくとも、公開しないよりはしたほうが良い。これを公開しないとこれから何も始まらないなと思い、公開に踏み切ることにした。

すべての内容を1つのエントリーにまとめると途中で読むのに疲れてしまう気がするので、深圳で感じたことについては、別途ブログエントリーに細分化することにした。

sseze.hatenablog.com

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以下では、この旅を総括して思うことについてまとめている。

あまり文章を書き慣れておらず長くて読みづらい文章ですが、最後まで目を通していただければ幸いです。(認識が間違ってる点があればご指摘いただけると助かります)

この体験をどう昇華していくべきか

ニコ技深圳観察会OB/OGの皆さんがそうだったように、自分もこの経験をベースに自分のフィールドで昇華したいと思っている。

深圳に行く前、自分はブログの最後を「良い部分は盗んでいきたい」と締めくくった

だが実際、蓋を開けてみたらどうだったかというと、これは盗むとか、到底そういうレベルで語れる話ではないんだな、ということに気付かされた。「こんな世界最強クラスの巨人がすぐ隣にいるのか、勝てっこないじゃないか」と、言いようのない焦りを感じた。

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南山ソフトウェア産業基地から見える巨大なTencentのHQ

Tencent社屋。デカい。
Tencent社屋のどデカさを目の当たりにしてただただ打ちひしがれる気持ちだった

ただし真似できる部分と、できない部分は切り分けて考えるべきだろう。巨大サプライチェーンというハード面は深圳に任せ、合理主義的なソフト面は、日本人も考え方を真似てみるべきだ。

また、優れた製品・サービスが出てきたということは、当然ながらそれによって滅ぼされた死屍累々もあるはずである。shaoさんのスライドでは、ここが大事なんだと説いている。つまり、失敗事例にこそ隠れた蜜の味があるのだ。これはなかなか報道には乗らない話で、定期的に深圳の情報通なコミュニティで情報をキャッチするか、自分の目で直接確かめる他ない。

実際、半年で消えるサービス、また新たに生まれる製品というのは出てくるので、それを追いかけに深圳を再来訪するだけでも十分価値のある旅になるだろう。

では、日本の電機メーカー社員としては何ができるだろう?いろいろと考えてみたが、正直な話、この答えがなかなか出ずにブログの投稿が遅れてしまっていたところが否めない。戦えば間違いなく負けることは目に見えている。戦ってはいけない相手なのだ。

日本メーカーを変える!という壮大な目標に到達できるかは未知数だが、今の自分に何ができるのか?と考えたときに、まずは自分の周囲の変えていける部分から動き始めてみようと思った。

"深圳リテラシー"を上げていく必要がある

日本でもここ数年で、以前のような「深圳ってどこ?」というレベルから「深圳ってどうやらすごいらしいね」という話が飛び交うようになってきた。しかし、事実と異なる情報がネットの記事に載ってしまったりするのを見ると、日本人の "深圳(中国)リテラシー" はまだ道半ばなのだと思う。(自分自身も知ったかぶりをしてはいけないという自戒も込めて)

また、日本人のムラ社会的気質とでも言うのか、とかく内向きな話題に集中してしまう傾向があるように感じる。日本のことしか知らないし、もっと言うと自分の業界のことしか知らない、日本のインターネット業界に属していると、渋谷・恵比寿・六本木周辺のローカルな話題にしか視野が向いていない、 LINEやメルカリは日本から世界に出て行ってすごい、みたいな、そんな話題ばかりで盛り上がっている気がする (あくまでも自分から見た主観ではあるけど)。

例え海外に目を向けたとしても、海外=シリコンバレー(米国)止まりで、じゃあ今ヨーロッパでホットなテクノロジーは?最近ドローンテクノロジーがアツいと聞くアフリカは?インドではどうだろう?東南アジアで流行っているスマホアプリは?と聞くとイマイチちゃんとした回答ができない、みたいなことが往々にして発生するのではないか。

恥ずかしながら自分自身がまさにそれだった。ほんの数ヶ月前まで、深圳発のハードウェアベンチャーが世界にどの程度進出しているのかとか、Tencent/WeChatやAlibaba/AliPayが作ったテクノロジーインフラが中国でどう浸透しているのかとか、全然意識が向いていなかった。シリコンバレーよりも遥かに近くに世界的な実験都市があるというのに、あまりにも無頓着だった。


ネットサービスから見る中国のイノベーション 澤田翔 [ニコ技深圳観察会 第8回]

このshaoさんのラップアップセッションを聴いていて 「QQ(TencentのやってるWeChatとは別のチャットアプリ)がやっていることはmixiもやりたかったことなんじゃないか?」 と思えて仕方がなかった。自分の興味・関心軸(インタレスト軸)という緩くて非リアルな繋がりの中でチャットする、という考え方はまさにmixiトーク (2013年にmixiメッセージとmixiコミュニティの機能を掛け合わせたチャットアプリとしてリリース。2016年にサービス終了)が目指していた姿だったが、登場があまりにも遅すぎた印象だ。

自分は開発メンバーではなかったため、mixiトークの企画がどう持ち上がったのかは不明だが、一つ確かなことは、当時ミクシィ社内でよく話題に挙がっていたのはFacebookTwitterであってQQではなかったということだ。もしかすると少数はいたのかもしれないが、メインストリームの話題に中国のWebサービスが挙がることは皆無だった。mixiFacebookTwitterを模した戦略ではなく、QQを模した戦略を取っていたら、もしかすると違った未来があったのかもしれない。そう思うと、一部の国のテクノロジーにしか目が向いていなかったことが悔やまれる。

深圳(中国)はもちろんのこと、これからは世界各国様々な地域のテクノロジーにも嗅覚を働かせたいと思う。そして自分のまわりから、深圳リテラシーを上げていきたい。

次はどんな人に参加してもらいたいか

僭越ながら、今後「ニコ技深圳観察会」に参加する意向がある人に向けて、どんな人物像がこの会に向いているかを考えてみた。(最後に抽選するのは高須さんなので、あくまでも参考程度に読んでいただけると)

まず自己責任で行動できること

この旅はお客さま気分で行くものではない。宿・飛行機もすべて自分で取る必要があるし、集合時に点呼も取らない前提なので、もしハグレたとしても自力で合流してやる!というガッツがないと厳しい旅になるかもしれない。(もちろんハグレないのがいちばん良い)

自己責任という話では、今回の旅では自分はSIMカード*1や滞在したホテル選び*2でかなりミスをしており、正直最初の3日くらいまではかなり精神的にタフな日々が続いた。ただ今回の旅のタフさ(朝8時にホテルを出て、夜の11時にホテルに帰ってくる)もあって、途中から慣れてしまい「まぁこれもいろいろと実験する旅の醍醐味」くらいには気にならなくなった。これらの経験を経て、「深圳、実は宿さえも予約せずに現地到着後に取ってしまっても良かったのでは?」とさえ思えてくるようになったので、不測の事態にも対応できるような図太いサバイバル能力があると良いかもしれない。

行くからには何を得たいかが明確になっていること

これからもおそらく参加レポートを執筆するというルールは続くと思うので、旅を通じて何を書くかが明確になっていると、参加レポートもすんなり書けるのだと思う。自分の場合、特に参加してみたくなった経緯とか、目標みたいなところについては、旅の前にまとめておくべきだったと痛感する。

また、可能であればこれまでのOB/OGの参加レポートを読んでおくと、当たりが付いて良いかもしれない。ただしこのブログからも分かるように参加してみるとみんな書きたいことが膨大になりすぎる傾向があるため(笑)、あくまでもサラッと読むくらいで良いと思う。

あとここは意見が分かれるところかもしれないが、やっぱり日頃からアウトプットを多くしている人のほうがレポートにまとめるのがうまいと思う。アウトプット量が足りないと、自分のように帰国してからの情報の整理に数週間の時間を要してしまうことだろう・・・。(文章をまとめるのに一体何個のマインドマップを書いたのか分からない)

まぁいくら準備しても、当初書こうと思っていたことと全然違うことについて書きたくなることもあるので(笑)、エイや!で文章を書ける自信のある人はそれでもいい気がする。(結局どっちなんだ)

何より、ハードウェア、ものづくりのファンであること

今回の年齢分布を見ると、高須さんの狙いなのか、若者からアラ還まで綺麗に揃っている。年齢制限は特にない。

また、職種についてもザックバランで、学生、研究者、プログラマ、エンジニア、デザイナー、メーカー社員、通信キャリア社員、保険会社社員、記者、コンサル、金融機関職員、教師...と、普段話したことのない職業の人も多かった。職種も特に制限はないようだ。

ただ共通しているのは、何かしらのかたちで深圳の「ハードウェア」や「ものづくり」のというキーワードに惹かれる人たちだったことだ。好奇心が旺盛で、言語や国の壁も飛び越えて実験するのが大好きで、非常にアクティブな人たちという印象を受けた。

もし深圳発の世界的有名企業(DJIやファーウェイなど)を見学しに行きたいだけなら、他でやっている有料の深圳ツアーに参加するのも手だと思う。ツアーに参加しなくとも華強北の電子街やDJIのフラッグシップストアに行ったり、もっと言うと、ハードウェアにはあまり興味がなくて、単にWeChatPayやmobikeみたいな中国のWebサービスを使ってみるだけなら、別に深圳である必要さえないかもしれない。上海でも体験できるサービスだ。

この旅は "メイカー" 向きの色が強い。射出成形や組み立てラインの工場から、ハードウェアスタートアップの開発最前線まで、深圳の今の「ものづくり」を一通り俯瞰してみることができる。

ガジェットに目をキラキラさせる心を持っている人ならば、この旅はぜひ参加するべきだろう。

電機メーカーでの"メイカームーブメント"の起こし方

最後に高須さんのラップアップセッションの動画を貼っておく。ムーブメントは、はじめ一人から始まったダンスが、次第にその周りで伝播し一緒に踊り続けることによって作り出される、というTEDの有名なセッションをベースにした話だ。

多くの人にとって、日本の電機メーカーでメイカームーブメントを起こすなんで無茶なことのように感じるだろう。しかし、踊り続けることで一緒に踊ってくれる人が現れるかもしれない。

帰国してからこの3ヶ月と少し「深圳すごい」と会社で言いまくり、360度カメラを事あるごとに多用しまくった結果、深圳観察会で訪れたKandao社QooCamのKickstarterに出資したという人が2人も現れた!微々たるものかもしれないが、これを皮切りに自分も電機メーカーでメイカームーブメントを起こしていきたいと思う。

そしてゆくゆくは自分もMaker Faire Tokyoに出展したい!


僕たちが起こせるマジック -ニコ技深圳観察会- [8thニコ技深圳観察会]

おわりに

今後も参加者のブログや、写真、参加者限定の映像を見ながら定期的にこの旅のことを思い出すことになるだろう。高い抽選倍率の中、この観察会に参加できたことは本当に幸運だった。

JENESISの藤岡さんをはじめ、毎回の深圳観察会を支えてくださる常連参加者の皆さん、様々なバックグラウンドで新たな気づきを教えてくださった第8回メンバーの皆さん、そして何よりも全コーディネートをしていただいた高須さん、快く見学を受けてくださった深圳の多数の企業様、本当に今回はいろいろとお世話になりました。ありがとうございました!


参考文献

*1:タイの泣けるCM: https://www.youtube.com/watch?v=2fD0MWQ3xWY でおなじみ?のTrueMoveのアジア周遊SIMを人柱的に使ってみたのだが、これが人大杉で深圳の街の中だとしょっちゅう2G回線まで速度が落ちてしまい、WeChatでやりとりするだけでも結構苦労した。次回はshaoさんの記事: http://shao.hateblo.jp/entry/2018-best-prepaid-sim-in-china でオススメされているChina UnicomのSIMで行こうと思う。

*2:これまた人柱的にadodaの日本人レビューがまだ1件も付いていなかったここのホテル: https://www.agoda.com/ja-jp/idea-jar-hotel/hotel/shenzhen-cn.html?cid=-218 を予約してみたのだが、なんとチェックインカウンターで「予約が入っていない」と言われる始末・・・。北京語もまったく分からず、自分の拙い英語も全然通じずで困り果てた末に、クソ狭い風呂・トイレなしの2畳半ほどの部屋だったら空いてると言われて一応寝床は確保できたものの、水回りの悪い予感が的中し、衛生面の劣悪な環境で5泊6日を過ごしたのだった・・・。