深圳を見た今、アキバについて思うこと
この記事は第8回ニコ技深圳観察会参加レポート:あの1週間の深圳滞在を振り返ってのトピックその4です。(これでトピック終わり)
深圳は、なんでも実験する都市
深圳は、ここ30〜40年足らずで漁村からGDP中国第3位(北京、上海に次ぐ順位)にまでのし上がった都市だ。目まぐるしいスピードで変貌を遂げられたのには、この街が中国で最初の経済特区だったこと、そしてそれに伴って都市全体が計画されて建設されたという経緯がある。街は若者が稼ぎに来る街として計画整備されてきたこともあり、なんと老齢人口は2%!お金を稼ぎまくって年老いたら皆、自分の故郷へ帰って暮らすんだとか。合理的なことこの上ない・・・。
老齢人口が極端に少ないということは、街づくりはある種若者に最適化されたシステムとなる。すなわち、この街ではそこかしこで新しい実験がはじまりは消えてゆき、そしてその厳しい生存競争の中を生き残った優れた製品・サービスだけが残る。その代表格が「深圳すごい」の代名詞的な存在と言っても良い、WeChatPayとmobike/ofoだろう。
深圳速度でトライ・アンド・エラーを繰り返された製品・サービスは、その後中国全土の12億人の市場で試されることになる。これは日本の10倍の規模であり、つまりスピードも10倍というわけだ。それが深圳という街が他の都市と決定的に違うところである。
怪しげな情報・パーツを安い金でトライアンドエラーしていくのが楽しい感覚、なんとなく中高生の頃('01〜06頃)のアキバ・インターネットシーンに似てる気がする。深圳に妙に惹かれるのはこういう冒険心が研ぎ澄まされてくからなんだろうか?
— せーぜ (@sseze) 2018年3月18日
↑は、まだ観察会が始まってさえいない時(17日のウェルカムディナーの前)のツイートなのだが、振り返ってみると自分自身も深圳をトライ&エラーしていることが分かる。普段あまり海外に行かないため、体験するありとあらゆることが新鮮に感じられたのもあるが、深圳人たちも多かれ少なかれ同じような印象を持っているのではないだろうか。
深圳を訪れると感じる、あの冒険心を掻き立てられるような感覚は、15歳の時に初めてアキバに行った時の感覚とよく似ている(少なくとも自分の中では)。しかもその規模は日本の秋葉原の数十倍で、街中が「あきばお〜」や「上海問屋」のようであり、売られている商品は、その”メガ・アキバ”の街のどこかで設計・製造されている。
毎日の生活が新しいテクノロジーを試す社会実験であり、それがより良い豊かな社会を生み出そうとする姿を目の当たりにしながら日々生活しているのである。この街で暮らすことは、本当に羨ましい以外の何者でもない。
深圳への憧れ=日本の閉塞感の裏返し?
こう深圳のいろいろなすごさを目の当たりにしてから日本に帰国すると、多くの人は閉塞感を感じることだろう。あの深圳メトロのキラキラした若者たちに比べて、空港からの帰路で見る満員電車の悲壮感といったらない。なんというのか、ディズニーランドからの帰り道の急に夢から醒めるあの感覚と似たものを、深圳からの帰路でも感じるのである。
こういう感覚は、今のアキバを見ていても感じてしまう。深圳・華強北がお手本にしたというアキバは、今では電脳的な特色が色あせてしまった感じがしてならない。GWに久しぶりに訪れたアキバを見て、思わずこんなツイートをしてしまった↓
ちゃんとアキバの裏通り見て回るの多分大学生ぶりくらいだったんだけど、あきばお〜やドスパラ、Arkなどの一部を除いて結構な数の店が消滅していて、代わりにメイド喫茶と◯◯リフレ的な店が溢れかえっていた。自分の知っているアキバはとっくに死んだんだと思って、なんだか寂しかった。
— せーぜ (@sseze) 2018年5月4日
多分PCパーツ繁栄期の前には家電、更にその前はオーディオの時代も淘汰されてきたんだろうけど、とは言っても"電気街"としての秋葉原は残り続けていた。今のアキバは完全に色街と化していて、シフトチェンジした感じを受ける。色街としてのアキバが衰退した後には何が残るんだろう?
— せーぜ (@sseze) 2018年5月4日
今回の旅の締めくくりにスイッチサイエンスの金本さんも言っていたが、今の深圳が持っているものは、日本・秋葉原が欲しかったものそのものなんだと思う。
こう考えると、皆が口を揃えて言う「深圳すごい」というのは、この日本の閉塞感に対する裏返しなのではないか?と思えてくる。あくまで主観だが、あながち外れてもいないような気がする。
Insta360のものづくりに感じる、深圳らしさ
この記事は第8回ニコ技深圳観察会参加レポート:あの1週間の深圳滞在を振り返ってのトピックその3です。
Insta360は、日本のRECOH THETAが「360度カメラ」という市場を切り開いた2014年に創業し、今ではそのRECOH THETA、またアクションカメラのGoProをも脅かす勢いで世界を席巻しているハードウェアスタートアップだ。
彼らの製品づくりに見える合理主義性は、まずiOS用、Android用で対応製品が分かれていることから見て取れる。
これは自分がスマートフォン接続型の製品を作っていても付いて回る話だが、このようなデバイスを開発する際には、ビジネス上、より広くシェアを獲得したいがために1つの製品でiOSもAndroidも、と対応OSを欲張りがちになる。ただこれでは1機種を開発するために2倍か、それ以上のリードタイムが発生することになり、当然ながらその分市場投入も遅くなる。
Insta360では1機種1OSに限定し、リードタイムを大幅に圧縮することで市場投入スピードを高め、更にはファームウェアアップデートによって製品の機能を飛躍的に向上させてしまうといった離れ業までやってのける。まるでiPhoneやTeslaのモノづくりを見ているかのようだ。
また、世界的なシェアを見ればAndroidを選択するところを、あえてiOS専用製品にリソースを集中しているところも潔い。(Insta360では、Android対応製品はAirの1機種のみ)膨大なAndroidの機種依存に対応するコストをカットする意味合いや、360度カメラのような新しいユーザー体験に積極的にお金を落とすユーザーは高所得者層が厚いiOSユーザーの方が多い、という算段があったのかもしれない。
Insta360 ONE – Introducing FlowState Stabilization
深圳観察会の直後にリリースされた新しいファームウェアとスマートフォンアプリを紹介するこの動画から分かることは、 この製品は一見するとハードウェアだが、真の価値を作り出しているのはソフトウェアだ ということだ。 ハードウェアを売っているようで、実際にはソフトウェアの作り出すユーザー体験を売っている。
おそらくこの製品は 「360度で撮影した画像・映像をどう活用するか?」 というユーザー体験から逆算して生み出されている。ユーザーは単に 「360度写真・映像が撮りたい」 のではなく、静止画であれば 「人に見せたい・SNSでシェアしたい」 という欲求があり、動画であれば 「撮りたい被写体を、簡単に編集したい→それをYouTubeで共有したい」 という欲求がある。だからこそ、カメラの心臓部であるCMOSセンサーはSONY製のものを流用し、スマホ上で動画編集・共有を簡単に行えるようにアプリのユーザー体験を徹底的に作り込んだり、360度映像をソフトウェアで実現するソフトウェアエンジニアにリソースを集中的に投入するのだと思う。
一方、RECOH THETAはハードウェア上で360度映像を作り出しているのだという(今回RECOHつくる〜むから参加した北川さん談)。この辺がハードに強い日本企業っぽい。日本メーカーはこれまで高品質・高信頼性を製品価値として売ってきた経緯から、どうしてもハードウェアの品質向上にリソースを割く傾向がある。
だが、デジタル化した製品づくりにおいてそういった技術はあっという間にコモディティ化してしまう。新興企業に根っからのカメラメーカーを圧倒するほどの製品づくりができるのは、360度カメラという製品がどういう用途で使われるのか、どこに製品の真の価値があるか、といった サービス志向の製品づくりをしているから なのだろう。
こう言葉で書いてしまうと単純に思えるのだが、ハードありきで考えてしまいがちな日本のハードウェアメーカーにいると、これが頭で分かっていてもなかなか行動に移せない。やはりハードウェアプロトタイプがわずか1ヶ月程度で作れてしまう深圳という街の特性と、徹底した合理主義性が、そのことにいち早く気づくためのアドバンテージになっているように感じた。
なお少し余談になるが、今回訪問した会社はかなり多くの会社が実際に製品を開発している真っ只中のオフィスの中をぐるりと見せてくれたのもとても印象深かった。「え!?ここまで入っていいの?」と思わされる場面が多々あったのだが、もしかすると「ソフトの開発風景なんかどこの国でも変わらないし、別に真似されたっていい」「敢えてオフィス風景を見せてしまった方が会社のプレゼンス向上に繋がる」といった考えがあるのかもしれない。(ニコ技深圳観察会、あるいは高須さんの深圳でのコネクションの賜物という可能性も大いにあるが)
そんなこんなで、Insta360でアツいプレゼンに聴きふけっているうちに、自分も気がつけばその場でInsta360 ONEを衝動買いしてしまった!しかも、純正の撮影時に消える自撮り棒とBTリモコン付きで、日本で買うよりも数千円ディスカウントしてくれるという・・・。本当に恐れ入った。自分を含めてその場で11人がInsta360製品を爆買いしていく様も、熱量の高いニコ技深圳観察会っぽさがあってとても良かったwやっぱり深圳はすごい!
Insta360 ONEはその後、会社で「これが今の中国・深圳だ」というのを説明するのに使ったり、(下は自分の所属する部署の会議で集合写真を撮ったもの)
https://s.insta360.com/p/0c0b609ee4dcaf73c6bfdbdd1e7e130a
プライベートでもどこにでも持ち歩いて、いろいろな人を驚かせている。
https://s.insta360.com/p/bf5ce67eb9e2c4d2c7d9234ba5264be4
https://s.insta360.com/p/87dcf916d607be7b19ca41ead18c6839
https://s.insta360.com/p/e82c4d8783ab37c6ca8fb931df03be3a
https://s.insta360.com/p/e9ab5f8855d2c1f959c9e0652e6b7726
https://s.insta360.com/p/9d2e60083f6c4e87a05505862739ab84
https://s.insta360.com/p/6b2413290207d07e7a9a73abd4ff31cf
こんなに衝動買いして良かったと思える製品に出会ったのはいつぶりだろう?
(それにしてもBBQの写真多すぎであるw)
「深圳すごい」とはどういうことだったか?
この記事は第8回ニコ技深圳観察会参加レポート:あの1週間の深圳滞在を振り返ってのトピックその2です。
前置きが長くなってしまったが、ここから今回のレポートの本題となる。
中国・深圳への滞在期間は2018年3月17日~22日までの約1週間ほど、昨年11月の Maker Faire Shenzhen 2017 から4ヶ月ぶり、2回目の訪問となった。
「深圳すごい」というフレーズは、深圳を訪れる人が必ずと言って良いほどよく口にする言葉だが、じゃあ何がどう「すごい」のだろうか?
まずは今回の訪問先についてざっくりと振り返っていく。
スケジュールの都合上一部この順序になってはいないのだが、
- パート1(工場・製造現場編)
- Made in Chinaの根幹を成す、製造業の街・深圳の製造現場を訪問。
- 訪問先
- Seeed AMC(Agile Manufacture Center)
- JENESIS、及び取引先の金型、射出成形工場
- 普沙井電子城(巨大なメカトロショッピングモール)
- パート2(深圳ハードウェアスタートアップ編)
- パート3(インキュベータ/アクセラレータ編)
という感じにおおまかに分けると3つのパートに分かれていた。
深圳という街が家電メーカーの工場地帯に始まり、その後受託製造の街へと変貌する過程で巨大な水平分業サプライチェーンが形成され、世界的なハードウェアスタートアップの集積地へと変化していく過程がよく分かる構成になっている。
その中で共通しているのが "深圳速度" というキーワードだ。元は深圳の建設ラッシュを指す言葉だったとのことだが、今では深圳のエコシステムを形容する言葉としても使われているのだという。
「深圳すごい」の代表格としてWeChatPay(微信支付)が取り上げられることが多い印象があるが、深圳のすごさは単に電子決済が急速に進んだという話では片付けられない。WeChatを生んだTencentの本拠地であるこの街のすごさは、徹底した合理主義と、街全体が社会実装の実験場であることから見ることができる。
徹底した合理主義性に見る、"深圳速度"
深圳は中国初の経済特区で、それまで未開拓だった土地から30~40年足らずの間に急速に発展を遂げたとても新しい街だ。車で1時間圏内に電子機器・デジタル製品のサプライチェーンがすべて集積されているという、製造業の人間ならば羨ましいことこの上ない特異な環境が出来上がっている。
この特異な環境から生み出されたのが、下の写真のスライドに書かれている 『プロトタイプの設計から製品出荷まで41日』という驚異的速さ でのハードウェア開発だ。日本で同じことをやろうものなら、どんなに最速でも半年、多くの場合年単位での期間が必要になるだろう。
潤沢かつ集積密度の高いサプライチェーンというハード面での優位性はもちろんのこと、今回の旅で非常に印象的だったのが、中国人の合理主義的な商売の上手さというソフト面での優位性だった。
深圳のサプライチェーンを語る上で避けては通れないのが合板(ゴンバン/汎用基板)や合模(ゴンモウ/汎用金型)であり、またそれらを組み合わせて製品を作る山寨(シャンザイ)製品である。それまで企業固有のものであった電子基板や金型が、水平分業サプライチェーンが形成される過程で誰しもが作れて使うことができる汎用品となったもの、あるいはそれに独自に手を加えたものだ。
中国はよく知られているように「パクり大国」で、先人が作った良い型はどんどんパクられてあっという間にコモディティ化していく。日本人の感覚からすると「真似なんてズルだ!」と思うものだが、中国人からすると「稼げるときに稼いでおき、パクられている頃にはもう次の飯のタネで稼ぐ」という感覚なんだそうだ。大阪人も顔負けの商売気質。合板・合模・山寨といった考え方もまさにこういう考え方から自然発生的に生まれたものなんだろう。
今回訪問したロボットベンチャーのCityEasyや後述するInsta360のような会社は、その結果生まれた会社の一部である。
CityEasyの話は自分も感じたソフト面での深圳の象徴する一場面として、今回の多くの参加者のレポートでも取り上げられている。自分の書きたかったことも、伊藤亜聖先生のブログや、shaoさんのブログで大体網羅されている。
シリコンバレーも顔負けの真新しいオフィス、そしてソフトウェアエンジニア集団という出で立ちのInsta360は、一見するとCityEasyとは真逆の会社のようである。しかし自分の中では、その中に感じられる数々のことがすごく深圳を象徴しているように思えた。Insta360 ONEは今回の旅で衝動買いしたガジェットの中でも大変お世話になっている製品でもあるので、次の記事ではInsta360について掘り下げてみたいと思う。
参加の経緯と、旅の目標
この記事は第8回ニコ技深圳観察会参加レポート:あの1週間の深圳滞在を振り返ってのトピックその1です。
漠然とした深圳という街への興味
『中国の "深圳" という街がどうやらすごいらしい』と自分が耳にするようになったのは大学生の頃だったと思う。"アキバ系!電脳空間カウボーイズ” というポッドキャストをやたら熱心に聴いていた時期で、その中のある回で『中国にあるアキバをどデカくしたところ』と紹介された街、それが深圳の第一印象だった。PCパーツ街を回るのが好きでよくアキバを訪れていたので、その "メガ・アキバ" のような話に漠然とワクワクしたのを覚えている。
当時、世間ではiPhoneが出たばかりだったこともあり、ポッドキャストでも度々中華携帯に関する話題が特集されていた。ブログ記事には10年近く前の「華強電子世界」内部の写真などが載っていて、いわゆる藤岡さんの本の中で紹介されている山寨携帯が山のように映っている。まさに本のとおりだったことがここからも見て取れる。
ちなみにこの電脳空間カウボーイズ、今回のニコ技深圳観察会の参加メンバーの坂巻さんが登場する回もある。Kaossilator Pro、懐かしい...そして坂巻さんが今の印象と大分違うw
こう思い返していくと、今回の深圳の旅のいろいろな点がこのポッドキャストから端を発して繋がっていく感じがして、なんだかとても感慨深い。
10年越しの思いがけない深圳旅行への導き
そんな学生時代から10年程の月日が経ったある日、前職時代に一緒に働いていた id:toradady さんとの飲み会の席で 「今度、仲間と Maker Faire Shenzhen 2017 に行くんだけど、一緒に来る?」 と思いがけないお誘いがあった。海外経験が圧倒的に乏しく、なかなかはじめの一歩が踏み出せていなかったため、この機会を逃すと深圳に行けない気がした。何より、転職した電機メーカーでニッチも、サッチも行かないその当時の状況を打開する糸口が欲しい時期でもあった。
はじめての深圳旅行は仕事の都合上、土日だけの弾丸ツアーとなり、深圳の滞在期間はなんと16時間!MFSZ2017の他、電脳空間カウボーイズでも話されていた華強北の電気街の観光、ちょうど滞在期間中に開催されていた白石州でのビアミートアップへの参加(マシンガントークで英語を話す高須さんに遭遇したりした)など、16時間にしてはなかなかに濃い体験ができたものの、 やはり次はニコ技深圳観察会でまた訪れたいという気持ちも高まった旅行だった。(一緒に回ったメンバーはid:toradadyさんを含め第7回メンバーだった影響も大きい)
"ニコ技深圳観察会"というコミュニティへの興味と、今回の旅の目標
帰国から程なくして「第8回ニコ技深圳観察会」の募集がスタートした。
応募の過程で高須さんの著書「メイカーのエコシステム」に出てくる井内さん@RECOHつくる〜むの話など、電機メーカーに身を置く者なら頷かずには要られない!と思った点などをアツく書いたところ、奇跡的に抽選に残ることが出来た。(参加メンバーの顔ぶれからして、本当に運が良かったとしか思えない)
高須さんと藤岡さんの両著書は、深圳を訪れる前に読むとすごくワクワク感が醸成されるのでそれだけでも十分に楽しかったのだが、自分は特に "ニコ技深圳観察会" というコミュニティと、そこから派生する日本人によるメイカームーブメントの話に心を惹かれていた。自ら手を挙げてこの深圳観察会に参加し、深圳での体験をそれぞれのステージで昇華させていく彼ら彼女らの話の中には、自分の探し続けている "日本メーカー復活のヒント" があるような気がしたし、自分もこの深圳観察会を通じて答えを導き出したい、という気持ちが強かった。
また、単純に "メイカー" と呼ばれる人々がどんな人たちなのか、にも興味が湧いた。言葉自体は知っていたし、SanFransiscoを旅行した際、本家TechShopを訪れたこともあったけど、本を読むまではなんとなく敷居の高さを感じていた部分があった。でもメイカームーブメントの成り立ちを知って、もしかすると自分が思っているほど敷居を高く感じる必要はないのかもしれないと思うようになった。
第8回ニコ技深圳観察会参加レポート:あの1週間の深圳滞在を振り返って
大分遅くなってしまったが、第8回ニコ技深圳観察会の参加レポートをアップする。
情報量・質ともに自分の経験してきた旅の中で過去最高のものであったため、情報の整理・文章化・そして公開するまでにすごく長い時間を要してしまったが、ようやく自分自身で腹落ちすることができたので、思い切って公開してみることにする。
はじめに
実を言うと、このレポートの大半は5月のGW頃までには書き終えていた。しかし何度も文章を書き直すうちに、次第に自分がこの旅を通じて得たかったものはこれでいいのだろうか、所属を公開しながらこんな文章で公開してしまって良いものか、と悩むようになり、毎日活発に送られてくる参加者OB/OGの人たちのWeChatグループの通知を目にしているうち、このブログや「ニコ技深圳コミュニティ」から足が遠のいてしまっていた。
ただ、今回の旅は過去最高の応募の中で参加できた貴重な機会だったし、何より自分の中でもあの深圳での濃密な1週間をどうにか形にしておきたい、という気持ちが2ヶ月弱の間、常に頭の片隅にあった。
たとえ今は納得のいく出来でなくとも、公開しないよりはしたほうが良い。これを公開しないとこれから何も始まらないなと思い、公開に踏み切ることにした。
すべての内容を1つのエントリーにまとめると途中で読むのに疲れてしまう気がするので、深圳で感じたことについては、別途ブログエントリーに細分化することにした。
以下では、この旅を総括して思うことについてまとめている。
あまり文章を書き慣れておらず長くて読みづらい文章ですが、最後まで目を通していただければ幸いです。(認識が間違ってる点があればご指摘いただけると助かります)
この体験をどう昇華していくべきか
ニコ技深圳観察会OB/OGの皆さんがそうだったように、自分もこの経験をベースに自分のフィールドで昇華したいと思っている。
深圳に行く前、自分はブログの最後を「良い部分は盗んでいきたい」と締めくくった。
だが実際、蓋を開けてみたらどうだったかというと、これは盗むとか、到底そういうレベルで語れる話ではないんだな、ということに気付かされた。「こんな世界最強クラスの巨人がすぐ隣にいるのか、勝てっこないじゃないか」と、言いようのない焦りを感じた。
ただし真似できる部分と、できない部分は切り分けて考えるべきだろう。巨大サプライチェーンというハード面は深圳に任せ、合理主義的なソフト面は、日本人も考え方を真似てみるべきだ。
また、優れた製品・サービスが出てきたということは、当然ながらそれによって滅ぼされた死屍累々もあるはずである。shaoさんのスライドでは、ここが大事なんだと説いている。つまり、失敗事例にこそ隠れた蜜の味があるのだ。これはなかなか報道には乗らない話で、定期的に深圳の情報通なコミュニティで情報をキャッチするか、自分の目で直接確かめる他ない。
実際、半年で消えるサービス、また新たに生まれる製品というのは出てくるので、それを追いかけに深圳を再来訪するだけでも十分価値のある旅になるだろう。
では、日本の電機メーカー社員としては何ができるだろう?いろいろと考えてみたが、正直な話、この答えがなかなか出ずにブログの投稿が遅れてしまっていたところが否めない。戦えば間違いなく負けることは目に見えている。戦ってはいけない相手なのだ。
日本メーカーを変える!という壮大な目標に到達できるかは未知数だが、今の自分に何ができるのか?と考えたときに、まずは自分の周囲の変えていける部分から動き始めてみようと思った。
"深圳リテラシー"を上げていく必要がある
日本でもここ数年で、以前のような「深圳ってどこ?」というレベルから「深圳ってどうやらすごいらしいね」という話が飛び交うようになってきた。しかし、事実と異なる情報がネットの記事に載ってしまったりするのを見ると、日本人の "深圳(中国)リテラシー" はまだ道半ばなのだと思う。(自分自身も知ったかぶりをしてはいけないという自戒も込めて)
また、日本人のムラ社会的気質とでも言うのか、とかく内向きな話題に集中してしまう傾向があるように感じる。日本のことしか知らないし、もっと言うと自分の業界のことしか知らない、日本のインターネット業界に属していると、渋谷・恵比寿・六本木周辺のローカルな話題にしか視野が向いていない、 LINEやメルカリは日本から世界に出て行ってすごい、みたいな、そんな話題ばかりで盛り上がっている気がする (あくまでも自分から見た主観ではあるけど)。
例え海外に目を向けたとしても、海外=シリコンバレー(米国)止まりで、じゃあ今ヨーロッパでホットなテクノロジーは?最近ドローンテクノロジーがアツいと聞くアフリカは?インドではどうだろう?東南アジアで流行っているスマホアプリは?と聞くとイマイチちゃんとした回答ができない、みたいなことが往々にして発生するのではないか。
恥ずかしながら自分自身がまさにそれだった。ほんの数ヶ月前まで、深圳発のハードウェアベンチャーが世界にどの程度進出しているのかとか、Tencent/WeChatやAlibaba/AliPayが作ったテクノロジーインフラが中国でどう浸透しているのかとか、全然意識が向いていなかった。シリコンバレーよりも遥かに近くに世界的な実験都市があるというのに、あまりにも無頓着だった。
ネットサービスから見る中国のイノベーション 澤田翔 [ニコ技深圳観察会 第8回]
このshaoさんのラップアップセッションを聴いていて 「QQ(TencentのやってるWeChatとは別のチャットアプリ)がやっていることはmixiもやりたかったことなんじゃないか?」 と思えて仕方がなかった。自分の興味・関心軸(インタレスト軸)という緩くて非リアルな繋がりの中でチャットする、という考え方はまさにmixiトーク (2013年にmixiメッセージとmixiコミュニティの機能を掛け合わせたチャットアプリとしてリリース。2016年にサービス終了)が目指していた姿だったが、登場があまりにも遅すぎた印象だ。
自分は開発メンバーではなかったため、mixiトークの企画がどう持ち上がったのかは不明だが、一つ確かなことは、当時ミクシィ社内でよく話題に挙がっていたのはFacebookとTwitterであってQQではなかったということだ。もしかすると少数はいたのかもしれないが、メインストリームの話題に中国のWebサービスが挙がることは皆無だった。mixiがFacebookやTwitterを模した戦略ではなく、QQを模した戦略を取っていたら、もしかすると違った未来があったのかもしれない。そう思うと、一部の国のテクノロジーにしか目が向いていなかったことが悔やまれる。
深圳(中国)はもちろんのこと、これからは世界各国様々な地域のテクノロジーにも嗅覚を働かせたいと思う。そして自分のまわりから、深圳リテラシーを上げていきたい。
次はどんな人に参加してもらいたいか
僭越ながら、今後「ニコ技深圳観察会」に参加する意向がある人に向けて、どんな人物像がこの会に向いているかを考えてみた。(最後に抽選するのは高須さんなので、あくまでも参考程度に読んでいただけると)
まず自己責任で行動できること
この旅はお客さま気分で行くものではない。宿・飛行機もすべて自分で取る必要があるし、集合時に点呼も取らない前提なので、もしハグレたとしても自力で合流してやる!というガッツがないと厳しい旅になるかもしれない。(もちろんハグレないのがいちばん良い)
自己責任という話では、今回の旅では自分はSIMカード*1や滞在したホテル選び*2でかなりミスをしており、正直最初の3日くらいまではかなり精神的にタフな日々が続いた。ただ今回の旅のタフさ(朝8時にホテルを出て、夜の11時にホテルに帰ってくる)もあって、途中から慣れてしまい「まぁこれもいろいろと実験する旅の醍醐味」くらいには気にならなくなった。これらの経験を経て、「深圳、実は宿さえも予約せずに現地到着後に取ってしまっても良かったのでは?」とさえ思えてくるようになったので、不測の事態にも対応できるような図太いサバイバル能力があると良いかもしれない。
行くからには何を得たいかが明確になっていること
これからもおそらく参加レポートを執筆するというルールは続くと思うので、旅を通じて何を書くかが明確になっていると、参加レポートもすんなり書けるのだと思う。自分の場合、特に参加してみたくなった経緯とか、目標みたいなところについては、旅の前にまとめておくべきだったと痛感する。
また、可能であればこれまでのOB/OGの参加レポートを読んでおくと、当たりが付いて良いかもしれない。ただしこのブログからも分かるように参加してみるとみんな書きたいことが膨大になりすぎる傾向があるため(笑)、あくまでもサラッと読むくらいで良いと思う。
あとここは意見が分かれるところかもしれないが、やっぱり日頃からアウトプットを多くしている人のほうがレポートにまとめるのがうまいと思う。アウトプット量が足りないと、自分のように帰国してからの情報の整理に数週間の時間を要してしまうことだろう・・・。(文章をまとめるのに一体何個のマインドマップを書いたのか分からない)
まぁいくら準備しても、当初書こうと思っていたことと全然違うことについて書きたくなることもあるので(笑)、エイや!で文章を書ける自信のある人はそれでもいい気がする。(結局どっちなんだ)
何より、ハードウェア、ものづくりのファンであること
今回の年齢分布を見ると、高須さんの狙いなのか、若者からアラ還まで綺麗に揃っている。年齢制限は特にない。
また、職種についてもザックバランで、学生、研究者、プログラマ、エンジニア、デザイナー、メーカー社員、通信キャリア社員、保険会社社員、記者、コンサル、金融機関職員、教師...と、普段話したことのない職業の人も多かった。職種も特に制限はないようだ。
ただ共通しているのは、何かしらのかたちで深圳の「ハードウェア」や「ものづくり」のというキーワードに惹かれる人たちだったことだ。好奇心が旺盛で、言語や国の壁も飛び越えて実験するのが大好きで、非常にアクティブな人たちという印象を受けた。
もし深圳発の世界的有名企業(DJIやファーウェイなど)を見学しに行きたいだけなら、他でやっている有料の深圳ツアーに参加するのも手だと思う。ツアーに参加しなくとも華強北の電子街やDJIのフラッグシップストアに行ったり、もっと言うと、ハードウェアにはあまり興味がなくて、単にWeChatPayやmobikeみたいな中国のWebサービスを使ってみるだけなら、別に深圳である必要さえないかもしれない。上海でも体験できるサービスだ。
この旅は "メイカー" 向きの色が強い。射出成形や組み立てラインの工場から、ハードウェアスタートアップの開発最前線まで、深圳の今の「ものづくり」を一通り俯瞰してみることができる。
ガジェットに目をキラキラさせる心を持っている人ならば、この旅はぜひ参加するべきだろう。
電機メーカーでの"メイカームーブメント"の起こし方
最後に高須さんのラップアップセッションの動画を貼っておく。ムーブメントは、はじめ一人から始まったダンスが、次第にその周りで伝播し一緒に踊り続けることによって作り出される、というTEDの有名なセッションをベースにした話だ。
多くの人にとって、日本の電機メーカーでメイカームーブメントを起こすなんで無茶なことのように感じるだろう。しかし、踊り続けることで一緒に踊ってくれる人が現れるかもしれない。
帰国してからこの3ヶ月と少し「深圳すごい」と会社で言いまくり、360度カメラを事あるごとに多用しまくった結果、深圳観察会で訪れたKandao社のQooCamのKickstarterに出資したという人が2人も現れた!微々たるものかもしれないが、これを皮切りに自分も電機メーカーでメイカームーブメントを起こしていきたいと思う。
そしてゆくゆくは自分もMaker Faire Tokyoに出展したい!
僕たちが起こせるマジック -ニコ技深圳観察会- [8thニコ技深圳観察会]
おわりに
今後も参加者のブログや、写真、参加者限定の映像を見ながら定期的にこの旅のことを思い出すことになるだろう。高い抽選倍率の中、この観察会に参加できたことは本当に幸運だった。
JENESISの藤岡さんをはじめ、毎回の深圳観察会を支えてくださる常連参加者の皆さん、様々なバックグラウンドで新たな気づきを教えてくださった第8回メンバーの皆さん、そして何よりも全コーディネートをしていただいた高須さん、快く見学を受けてくださった深圳の多数の企業様、本当に今回はいろいろとお世話になりました。ありがとうございました!
参考文献
メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))
- 作者: 高須正和
- 出版社/メーカー: インプレスR&D
- 発売日: 2016/03/28
- メディア: Kindle版
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「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ−これからの製造のトレンドとエコシステム (NextPublishing)
- 作者: 藤岡淳一
- 出版社/メーカー: インプレスR&D
- 発売日: 2017/11/24
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (1件) を見る
- ニコ技深圳コミュニティとは
- 第8回ニコ技深セン観察会 参加者名簿:感想まとめ
- 記憶の整理と、文章をまとめるための参考にさせていただきました。
- 僕たちが起こせるマジック #ニコニコ技術部 深圳観察会 ラップアップセッション
- 第8回メンバーのWeChatグループチャット(一般非公開)
- 第8回メンバー戸田さん(朝日新聞)撮影のYouTube映像(一般非公開)
- 高須さんのバスレク音源(一般非公開)
- 人類史上最速で成長する都市「深セン」で何が起きているのか
- 他、深圳関連記事多数。
- 文章をまとめる上で検索でヒットした記事は手当たり次第読んだものの、何を読んだかまでは覚えていない...
- 思い出したら書き足していきます。
*1:タイの泣けるCM: https://www.youtube.com/watch?v=2fD0MWQ3xWY でおなじみ?のTrueMoveのアジア周遊SIMを人柱的に使ってみたのだが、これが人大杉で深圳の街の中だとしょっちゅう2G回線まで速度が落ちてしまい、WeChatでやりとりするだけでも結構苦労した。次回はshaoさんの記事: http://shao.hateblo.jp/entry/2018-best-prepaid-sim-in-china でオススメされているChina UnicomのSIMで行こうと思う。
*2:これまた人柱的にadodaの日本人レビューがまだ1件も付いていなかったここのホテル: https://www.agoda.com/ja-jp/idea-jar-hotel/hotel/shenzhen-cn.html?cid=-218 を予約してみたのだが、なんとチェックインカウンターで「予約が入っていない」と言われる始末・・・。北京語もまったく分からず、自分の拙い英語も全然通じずで困り果てた末に、クソ狭い風呂・トイレなしの2畳半ほどの部屋だったら空いてると言われて一応寝床は確保できたものの、水回りの悪い予感が的中し、衛生面の劣悪な環境で5泊6日を過ごしたのだった・・・。
自己紹介(+転職の経緯)とメイカーズのエコシステムを読んだ感想
これは ニコ技深圳観察会 (2018年3月) に参加申請をするために書いた自己紹介エントリーです。
自己紹介
Web上では、ssezeとか、ekinoshitaと名乗っています。昨年4月から某電機メーカーに勤務しています。それ以前は株式会社ミクシィでWeb/Androidアプリエンジニアを4年ほどやっていました。近況については昨年12月にブログを書いたので、合わせてご確認ください。
どんな仕事をしているか
現在は、車載製品を動かすコンパニオンスマートフォンアプリの開発に携わっています。前職の経験から、Webに繋がる機能も少し担当しています。いわゆる、コネクティッドカーと呼ばれる領域です。
転職の経緯
自己紹介の繋がりで、そういえばWeb上では書いていなかったな、と思ったので、ここで軽くWeb業界から電機業界に転職した経緯を書いておきます。一言で言うと「原点に立ち戻ってみたくなったから」です。
- 元来、日本メーカーのファンだった (プロジェクトXみたいな話が大好き)
- ガジェットが好きで中高生の頃はプロダクトデザイナーに憧れていた
- 紆余曲折あり、専攻がエレクトロニクス系3/4くらい、コンピューターサイエンス系1/4くらいの大学を卒業
- Web業界に飛び込んでからはアジャイルな開発スタイルにどっぷり浸かる
- 30を目前にして人生を振り返ってみたときに、自分が本当にやりたかったことは何だっけ?と思い始める
- そういえば、昔こんな記事も書いていた
- 次第にWebの開発スタイルを日本メーカーに浸透させられたら!と思うようになり、
- これまでファンだった電機メーカーの世界に思い切って飛び込んでみて、現在に至る
電機メーカーはお役所みたいにカタブツで、思うようにはいかないことだらけだけど、でもモノをつくる楽しさを感じられる場所です。ゆくゆくは、リーンでアジャイルな開発スタイルを根付かせて、もう一度輝いていた時代の日本の電機メーカーを復活させたい!という野望があります。
オフでなにをしているか
本当は何かアウトプットが出せたら良かったのですが、自分では書き貯めていたアイデアを公開するのが精一杯でした・・・。
アイデアを公開した意図としては、「メイカーズのエコシステム」の一節で出てくる 「 Do It With Others / Do It Together」( いっしょ に 作る) というやり方を実践したい、と思ったからです。自分はメイカーピラミッドの中でまだ ドリーマー の有象無象の中の1人、そしてアイデアは ベイパーウェア になってしまってる感も正直否めないところなのですが、、ただ、アイデアをいろんな人に共有してみて、フィードバックをもらった方が、何もアウトプットを出さないよりも良いのではないかとも思いました。
中国経験など
前職の知り合いで昨年4月のニコ技深圳観察会に参加した人がいて、その人繋がりで昨年11月のMaker Faire Shenzhen 2017期間中に土日弾丸で深圳を訪問しました。あまりにタイトなスケジュールだったので、次に開催されるニコ技深圳観察会でまた訪れたい!と思っていました。
前回の深圳訪問では、一人で香港から羅湖経由で深圳に上陸・深圳通を使って市内を移動しまくるところまではできたので、WeChatで繋がっていれば、今回初めて深圳を訪問する人を助けることができると思います。中国語はまだできないですが、カタコトの英語は話せます。
メイカーズのエコシステムを読んだ感想
1月中旬から読み始めて、今週ようやく読了しました;
本書を読んでいちばんマーカーを引いたのは、何と言ってもリコーの井内さんの「つくる〜む新横」の取り組みです。まさしく自分が今の会社でやりたい理想系だと感じました。(また奇しくも、自分もカーオーディオ・カーナビを作る仕事に携わっていて、妙な親近感が湧きました)
今の日本メーカーは元気がない。でも例えしょうもないものでも、独力で1つのものをつくりあげることでモノを作る喜びを感じられるんじゃないか?そういう空気感が、次のヒット商品を生み出す組織を醸成するんじゃないか?
自分も、"日本のメーカーがいちばん輝いていた時代をもう一度" という思いで、畑違いの電機メーカーに転職してきました。ウォークマンだって、カーナビだって、デジカメだって、最初はイチ平社員のアイデアから生まれて、その後世界へ羽ばたいていった日本を代表するヒット商品です。
先人たちに生み出せて、なぜ今の自分たちには生み出せないのか?
そう考えたときに、 新しさ=スペック表の◯印の多さ、に置き換わってしまっていることが大きな要因なのでは、と自分は感じます。「多機能であることが商品のウリになる」と考えているわけですが、本当にユーザーが欲しいのは多機能さなのか?と考えるといささか疑問が残ります。おそらく多くの製品は、多機能でもその大部分の機能をユーザーに使い切られることなく製品寿命を迎えているのではないでしょうか。
会社では「誰がこの機能を使うんだろう」と言いながら製品開発をしている人を見かけることがあります。でもそういう人が企画マンや、営業マンに対して「この機能は本当に必要なのか?」と直接文句を言っているところを、見たことがありません。円滑に進めるには、声の大きい人の言ってることに楯突いたらダメだ、もっと仕事が増える、そんな心理があるように思います。本当に悲しいことですが、仕事をすること=歯向かわずにYesマンになること だと思い込んでいて、たとえ使われない機能でも、作ることでお給料が出るならそれでいいと思っている人は、大企業になればなるほど多いです。
その一方で、本書に書かれているメイカーエコシステムの内側の人々は、純粋にモノをつくることを楽しんでいます。作る機能の大部分がソフトウェアで構成されているのに加えて、Seeedのようにハードウェア (プリント基板) もデータ化・オープンソース化されたことによって、従来のモノづくりよりも格段に早くプロトタイピングができるようになり、ハードウェア製品であってもアジャイルな開発スタイルが実現するようになりました。こうなると、自分の作ったものがユーザーにどう使われているかに耳が傾くようになり、自然と 仕事をすること=ユーザーに使われる機能を作ること になって行きます。
一昔前であれば、日本の品質で勝負が出来た時代もありましたが、今では、韓国でも、台湾でも、深圳 (中国) でも、ほとんど同程度の品質でモノづくりができてしまいます。じゃあユーザーはどこにお金を支払ってくれるのか?と言うと、より新しい体験を、どれだけ早く提供できるか、ということに掛かってきます。こうなってくると、優れたアイデアが醸成され、かつ高速にプロトタイピング+検証できる環境こそ重要になってきます。
一人ひとりがアイデアマンで、プロトタイプをサッと作って試すような、そういうリーンでアジャイルでモノづくりができる社員が増えれば、日本メーカーの未来もきっと明るいものになると信じています。かつての中国がそうであったように、雑な言い方をすれば、いいやり方はどんどんパクっていくべきだと思います。
自分は今回のツアーで、現代のモノづくりの現場の最前線で、どのようにアイデアが具現化され、そしてどんなルートで量産まで漕ぎ着けているのか、直接自分の目で確かめて、真似できるポイントを会社に持ち帰ってきたいと思っています。
...と、ここまで書いたところで「ハードウェアのシリコンバレー深圳に学ぶ」の感想も必須だということに気づきました・・・。完全に「メイカーズのエコシステム」の感想のみだと思いこんでいた・・・。〆切間に合うか分かりませんが、これから全速力で読んでいきます・・・。
行ってきました(追記)
Webベンチャーから電機メーカーに転職して思うこと (近況まとめ)
(おはようございます|こん(にちは|ばんは))。
この記事は mixi OB/OGによる ex-mixi Advent Calendar 2017 の10日目です。
例によって技術的な話ではない上に、個人的な話題ばかり書いてしまったため、自分も個人ブログにて投稿します。
想定する読者
- お世話になった現役ミクシィの皆様 (近況報告です)
- お世話になったミクシィOB/OGの皆様 (ご無沙汰しております)
- これからWebベンチャー→メーカーエンジニアへシフトチェンジしようとしている稀有な方
長いのでTL;DR
- 大学が電子情報系だと電機メーカーは結構楽しい
- ワークライフバランスがだいじな件
- 大企業をテラフォームするのは正直シンドい
- 職場環境、東京で消耗しなくなった話
- ミクシィで学べたこと、今後について
在職期間のこと
自分がミクシィに在籍した期間は、2012年9月から2017年3月末日までの4年7ヶ月でした(新卒入社前のアルバイトを含む)。
おそらく参加者の中だと、もっとも最近までミクシィでお世話になっていたOBかと思います。
在職中は、ミクシィ社の変革期だったということもあって、組織的に流動的な時期が続きました。
バイト時代はCS開発、その後新卒で入ってからは半年間mixiゲームプラットフォーム、その後ミクシィ・マーケティング社 (旧広告事業部) が売却されたことに伴い"プロモーションG"というマーケティング開発系のチームが発足、期間限定コンテンツ (Xmas, バレンタイン, 2014年サッカーW杯etc...) の開発にしばらく携わったかと思いきや、今度は、M&Aによって新しく事業ポートフォリオに加わったスタートアップにjoinして、未経験ながらAndroidアプリ開発や、Django(Python)でのサーバーサイド開発に携わったりと...凡人ながらいろんなことにチャレンジさせてもらいました。
近況
そんなこんなで4年と少しミクシィで働いた後、現在はとある日系の電機メーカーで働いています。
電機メーカー→Webベンチャー、というキャリアパスを耳にすることはあっても、その逆を志向する人はあまり聞かない気がします。転職するときにWeb上に自分のような人の記事があまり転がっていなかったので、本記事では、Webベンチャーから全然違う業界に来てみて感じていることをあれこれ書きたいと思います。どこかの誰かの参考になれば幸いです。
Webベンチャーから電機メーカーに移って良かった点
まず仕事をする中で感じた良かったこと。
- 「Web業界から来た」というだけで、いろいろと面白がってもらえる。
- 使ってるChrome拡張ひとつ取っても、いろいろな人からそれ何?と尋ねられる。
- Web業界での当たり前は、他業種では当たり前ではないことに気付かされる。
- 昔の製品の話をすると面白がられる。
- 『昔✕✕っていうCMありましたよね』みたいなマニアックな話をすると、こいつ変わってるな!と可愛がられる。
- まだ世に出回っていない新製品を先行で試させてもらえたりする。
- 何より、ガジェット開発に携われるという充足感がある。
- 職場に工場も併設されているのもあって、そこら中で千石や秋月にいるときの高揚感が味わえる。
- 自分は昔からガジェットが大好きだったんだということを再認識できたのも大きな収穫だった。
人事面で言うと、上司が元技術者、その後企画畑を経由してマネジメントに移ってきた人で、こういう人に巡り会えたのは、転職して良かったなと思うところです。
また電機メーカーにいると、電気回路や信号処理、音響、通信工学など、Webの仕事ではあまり触れないような物理的な素養が役に立つ場面もあるので、大学のときにやったわこれwと思えるような場面に遭遇できるのも良い点です。(理系大学を出ていて良かったなと思えます)
続いてワークライフバランスについて。
- 労組がとにかく強い。
- 残業規制があり働きすぎることがない。
- 残業時間が減り、オン/オフでメリハリを付けられる。
- オフでしっかり休めるので、オンのフロー状態を維持しやすい。
- オフ時間で読書をしたり、新しいガジェットを試す機会が格段に増した。
- 年次有給が異常に多くて驚く。
- 年間で25日、前年度繰越も合わせると最長で50日有給が付く。
- 有給消化のために1週間休んで良い制度がある。
ベンチャー企業から伝統的日本企業に転職するとまず感じるのが労働組合の影響力のデカさです。
一体何をやってる組織なんだ、と思うこともありますが、労使協定というのが地味にワークライフバランスの安定を確保してくれていて、ありがたい存在です。
オンとかオフとか言ってんじゃねーよ!という方もいるとは思うのですが、自分の場合はずっとオン状態でいるとオフに何もする気が起きなくなってしまったりするので、ミクシィの頃はオフの時間で全然インプットができない、みたいな状態になることが多くありました。
なので、オフの間に読書をしたり、新しいガジェットや技術に触れることで新しいインプットをしたりできるようになった今は、ワークライフバランスって地味に大事だなぁと思う次第です。
Webベンチャーから電機メーカーに移るとツラい点
一方で、ある程度裁量権の与えられているWebベンチャーから大企業に移ると、いろいろと困ることも。
- セクショナリズム、リスクヘッジ主義なので横断的な仕事がやりにくい。
- レガシーで非効率なやり方からなかなか脱却できない。
- 新しい技術に興味はあっても、全体にマインドが引っ張られていてなかなか変えられない。
詰まるところ、大企業病とはこういうことなのだと思いながら日々、孤軍奮闘しています。
できれば、ミクシィ入社当時に経験したような会社の変革期のムーブメントを起こしたいのですが、会社の変革のドライバーになれるかはまだ未知数です。
意外とツラくない点
一方で、意外にもあまりツラく感じないこともあります。
会社の設備が古いこと
- 事業所開所当時(40年くらい前)から建物を増改築していてボロいけど、結構馴染んでいる。
- 大学が国立だったので大体こんな感じだったのもあり、不思議と居心地が良い。
- 支給マシンがかなりショボいけど、意外と何とかなる。
自分の場合少し貧乏性なところがあるので、少し古かったり、使いづらかった方が、それを便利に使おうとする力が働くのかもしれません。
現職には最新鋭の MacBook Pro も、アーロン ( or バロン) も、昇降式の机もありませんが、お金のないベンチャーに来たような感じで、多少不便に感じることはあっても、設備についてはそれほど苦になるということはなかったように思います。
都心を離れたこと
- 今は都心から電車で40分くらいの地方都市にあるドデカイ事業所に通勤してる
- 上り方面の通勤ラッシュから解放されることがこんなに快適だったとは (まだ東京で消耗しt (ry
- 都心と職場のちょうど中間に居を構えたのが良かったのかも
- なんだかんだで結構な頻度で都内に遊びに行けるのが地味に良い
東京出身ではあるものの、育ちは東京の郊外や首都圏近県だったこともあり、むしろ都心で消耗しなくなった分、こちらの方が楽な気さえします。前述のとおり、これもオンとオフの切り換えと捉えても良いかもしれません。職と居は都心から離し、仕事が終わったら渋谷に飲みに行くという生活が、自分には合っている気がします。
ミクシィを経て思うこと
自分は元来凡人気質なので、普通に大学を出て、普通にサラリーマンをやって、日本から出ることなんてないだろうと思っていましたが、運良くミクシィに入社できたおかげで、自分では考えもしなかった方向に視野が広がったように思います。
ミクシィを経ていなければ、レガシーなやり方に何の疑いも持たなかったでしょうし、コードを書くことや、英語を話すことに対する苦手意識もいまだに拭えなかったんじゃないかと思います。土日で弾丸で深圳に行こう、なんてことも考えなかったはずです。
シュッと香港(深圳)に行ってきます👋✈️ 何気に初の一人海外だ。。。 (@ 東京国際空港 / 羽田空港 in 大田区, 東京都) https://t.co/IYLzfAbstX
— せーぜ (@sseze) 2017年11月10日
いろいろとマサカリを食らって怪我をしたことも多々ありましたが、二十代の半分近くをミクシィで過ごせたことは、現職において間違いなくアドバンテージになっていると感じます。
これからについて
少しコードを書かなくなって改めて再認識させられるのは、コードが書ける環境の重要性です。一見すると、自分でコードを書いて、CircleCIでテストを回し、デプロイしたら、ユーザーの行動分析をして、その結果を踏まえてまたコードを書いて... というアジャイルのサイクルを回すことを当たり前のように感じてしまいがちですが、世の中のプロダクトでは、まだまだそれが当たり前になっていないところがあります。
現職を経験してみて一筋縄ではいかないことも分かったのですが、やはり今自分のやりたいのは、Web業界でのモノづくりのやり方を駆使して旧業態をテラフォームすることのように思います。また、できれば今は物体としてのモノづくりに近い領域に携わっていたいという気持ちも強いです。
ひとまず目下計画中なのは、部署でコードが書ける環境を整備することです。これまではミクシィの優秀なエンジニアの皆さんがやってくれていた開発環境整備を自分も見よう見まねでやっていこうと思います。
次回は tnj-san のエントリーです。
何かいい話を書くそうです。どうぞお楽しみにー!